大学教員は教育職か研究職か

| | コメント(5)
Clip to Evernote 大学教員は教育職か研究職か

書こうと思ってから,かなりの時間が経ってしまった.しかしながら,書かざるを得ない.ちょうど暇なので,書いてみようと思う.関連記事として,九州大学の取り組みについて書かれた,朝日新聞2008年4月21日付朝刊29面(教育)の「脱「横並び」へ 妙手次々」を挙げておく.ネット版には記事が上がっていないようだ.とりあえず,聞蔵IIから引用.

 ――「4・2・4アクションプラン」(四つの活動の柱=教育、研究、社会貢献、国際貢献。二つの将来構想=新科学領域への展開とアジア指向の具体化。四つの支援=人的資源、研究スペース、予算、研究・教育時間)を掲げてきましたね。

 「柱と構想に沿って頑張った人には資源を優先的に配分するということです。それが目に見えるように、04年度から約40人の教員を『スーパースター』に選んで研究費を年額400万~800万円上乗せする試みを始めた。横並びだった大学の教員を『区別』するという画期的な試みです。初めは反発もあったが、だんだん理解されてきた」

朝日新聞 2008年4月21日付 朝刊29面

これは大学教員に対して,成果性を引いて,差別化を図ろうというもの.どの辺が「スーパースター」なのかは理解できませんが,いいんじゃないでしょうか.そもそも科研費だって,競争的資金になるんだし.業績を上げている人は,評価されて然りだと思います.

だがしかし,その一方で,資金を獲得できない人もいるのです.それはそうです.競争的ですから.競争的資金を獲得できない大学教員は評価されず,きっと苦労するはずです.それはおかしい.何故ならば,大学教員の仕事は研究だけではないからである.

ここからが本題.大学教員は研究職なのだろうか.JREC-INの分類に従うならば,明らかに研究職.そして一般的に,研究職だと認知されている.だがしかし,大学教員なら,自分の給与体系くらい知っているだろう.大学教員は明確に教育職員であると書かれている.そうだ.大学教員は教育職なんだ.

でも,移籍や昇進の際に評価される項目はなにか.論文数だったり,競争的資金獲得歴だったり,研究業績だったり,受賞歴だったり,研究のことばっかり.面接で訊かれることといえば,「どんな研究をしているか」とか「これからどういう研究をしているか」とか,研究の話ばっかり.それはそうですよね.教育の評価ってどうやるんですか?Aの単位を何人に出したかですか?単位を落とした学生が如何に少なかったかですか?「あの先生はいい先生だ」という評判ですか?どれもこれも一筋縄で評価できるような内容ではありません.結局,大学教員は簡単に評価が可能な研究の面からしか評価されていない.これをどげんかせんといかん.

という話の流れで,教育教授という役職を準備する動きがあるようだ.今度は山形大学の話だ.山形大学は学長選で香ばしい香りが漂っていたのだが,落ち着いたのだろうか.それはさておき.

山形大学工学部では、ずいぶん以前から教育教授、研究教授、社会貢献教授などをつくるべきだという議論がなされていた。

きまぐれ雑記 : 教育教授と研究教授

そうですよね.教授と一口にいっても,様々です.研究が得意な教授もいれば,教育に熱心な教授もいる.はたまた,地域住民との外交がうまい教授もいる.それらの教授陣がうまくかみ合って,大学という運営はうまくいくものだと思う.だって,そうでしょ.研究ばっかりやって,教育を疎かではおかしいし,手厚く教育を施しても,研究のやり方はしりませんじゃだめだし,地域住民の意見を無視で,核実験ドカンドカンとか,まずいし.だから,山形大工学部の行く末には,大変期待している.特に,教育教授に期待している.

教育については教員みんなが当然の義務として授業や卒業研究の指導などをしているが、その定量的な評価(appreciation)は難しい。 appreciationの指針として、授業評価、教職員の評判、卒業生の評判、卒業生に対する社会の評判などがあるが、いずれも数値化が困難。したがっ て、だれを教育教授とみなすかは難しい。小生の意見は「自己申告が良いのではないか」だった。(最近では、一人一人の教員が教育、研究、社会貢献、運営への仕事の割合を届けるようになっており、自己申告制が導入されてきてはいる。)

きまぐれ雑記 : 教育教授と研究教授

教育の評価はやはり難しいようだ.定量的な評価は難しいどころか,不可能ではないのかと思う.何故かといえば,教育の成果を数値化できたとしても,それは教育によってなされたものなのか,学生の努力によるものなのか,区別がつかないからである.

ところで,話は変わるが,研究教授の方にも触れておく.研究教授は多くの人が考える,一般的な教授像のすごい版であると言えよう.研究をバリバリやって,世界の最先端を歩み,多くの研究者をけん引する役目である.この研究教授は大学に欠かせない存在である.特に,私大の場合,学費だけでは立ち回らないものであって,研究資金を獲得してきてくれる大学教員は良い存在である.また,大学の名を売る役目も果たし,一石二鳥にも三鳥にもなる,素晴らしい存在である.教授の鑑と褒め千切ってもいい.

山形大学工学部が実施しているこの制度はあまり知られていなくて、本省から事務に問い合わせがあったくらいなので、ここで簡単に説明すると、大学に研究費から800万円納めてリサーチプロフェッサーの称号を得ると、学部および学科の運営業務および授業の分担が免除されるのだ。

大学教授のぶっちゃけ話: リサーチプロフェッサー

研究教授にはバリバリと研究をしてもらうために,教育・運営の任から解き放つのは良いと思う.研究教授という役目を置くことには,なんら問題はない.では,そうなってくると,教育・運営はどうするのか.運営の専任って意味が分からないけど,教育の専任はありえるだろう.それが教育教授なる立場であると思う.

昨今,助手・助教は元より,講師・准教授あたりにおいても,任期制となりつつあるようだ.再度確認したいが,移籍や昇進の際には研究業績が評価される.教育成績は評価されない,というか客観的に評価できない.任期職にある者は,次の職位を獲得するために,必死で研究をおこなうわけだ.研究をして業績を上げなければ,大学職員の職を失うかもしれない.大学教員は教育職員であるにも関わらずだ.

そもそも,学校教育法第92条にはこのように書かれている.

第九十二条  大学には学長、教授、准教授、助教、助手及び事務職員を置かなければならない。ただし、教育研究上の組織編制として適切と認められる場合には、准教授、助教又は助手を置かないことができる。
○6  教授は、専攻分野について、教育上、研究上又は実務上の特に優れた知識、能力及び実績を有する者であつて、学生を教授し、その研究を指導し、又は研究に従事する。
○7  准教授は、専攻分野について、教育上、研究上又は実務上の優れた知識、能力及び実績を有する者であつて、学生を教授し、その研究を指導し、又は研究に従事する。
○8  助教は、専攻分野について、教育上、研究上又は実務上の知識及び能力を有する者であつて、学生を教授し、その研究を指導し、又は研究に従事する。
○9  助手は、その所属する組織における教育研究の円滑な実施に必要な業務に従事する。
○10  講師は、教授又は准教授に準ずる職務に従事する。

学校教育法

又は研究に従事する」なのだから,研究をせずに,教育だけを行うことは是とされていると思うのだが,皆さんはどのように感じるだろうか.

だから,世の中には大きく分けて,2種類の大学教員がいてもおかしくないと思う.教育に根差す大学教員.研究に根差す大学教員.オレは前者であるわけだが,任期職にあるため,研究活動をすることは必然である.任期制が当たり前となった近年において,教育成績を評価できる体制を準備しなくてはならないだろう.そうでなければ,世の中の大学教員のすべてが,研究職となってしまう.FDをやればいいというものではない.そもそもFD担当が研究職を自負しているとか,片腹痛いわ.

蛇足になるが,今の大学に「教育がしたくて大学教員になった人」は一体何人いるだろうか.5%もいないのではないかと思う.大学教員になるための最低条件として,博士が必要であるため,多くの大学教員は研究をしてきた人間である.そして,そのまま研究を続けるのは自然だ.何故,教育をし続けたいと思う人間が大学教員になる道は閉ざされているのだろうか.不思議なものだ.

もう少し蛇足で,不思議な話をしたい.企業から大学に移って,大学教員になった人の多くはこう言う.「企業は利益追求で,金にならない研究はできない」「大学は研究が自由にできるから,とてもいい」言っていることはよくわかる.それについては,とやかく言えない.企業の立場からして,そうせざるを得ない状況はよくわかる.でも,考えてほしい.だからといって,移籍する先が大学なのか?ある研究所の要職に就いていた人が大学教員になったのだが,その方に,何故大学教員になろうと思ったのかを訊ねたことがある.その答えは衝撃的で「そのポストは1名しか置けない.君がいなくならないと下の人間をそのポストに上げられない.博士を持っているのなら,大学に行くのはどうか」と言われたらしい.なんぞそれ.大学は企業研究所の天下り先ではないのですよ.

そして,もう1つ蛇足の話をしたい.これはオレが知りうる限りのすべてである.企業出身で大学教員になった方々は口を揃えて,研究環境について述べる.オレはそういう方々にいつも尋ねる.「大学教育には興味はないんですか?」と.そうすると,これまた面白いようにテンプレ的な返答が返ってくる.「教育興味あるよ」オレはいつもがっかりだ.企業出身で大学教員になる人で,教育に根差した人はいないのだろうか.いないのだろうなぁ.

「オレは大学教育をしたい」と思っている人は,もっと主張するべきだ.声を大にして言いたい.オレは大学で教育をしたいんだ,と.

コメント(5)

こう言ってくれる人がいるというだけでなんか、嬉しいです。
応援してます^^

自分の身の周りですと、ウチの先生はそうだと思っていますし、あとウチの学科のh教授はお話を聞く限り、教育をしたいのだなぁと感じています。

菊池さま,コメントありがとうございますm(_ _)m
下っ端のペーペーですが,できる範囲で最大限の努力をしたいと思います.
一度,情報の教育拠点である高輪を見学に行ってみたいです.ぜひ.

約1年も前の記事へのコメントで恐縮ですが、気づいていて頂けることを祈りつつ。

私は、記事にもあった九州大学の学生ですが、
社会情報システム工学コースというコースが一昨年新設され、企業から教育専門の講師を派遣していただいて授業を行っています。

ここでは、実際の企業での仕事を模した授業を行い、実践力や問題解決力を鍛えることを目標としているのですが、
やっぱり制度上は今までと変わっておらず、研究という研究はしていないのですが、やっぱり修士論文という形で研究成果を発表しないといけないというジレンマを抱えています。

大学って研究を教育する場なのでしょうか?
それとも、研究を使って教育する場なのでしょうか?

後者なら私が受けてきた教育は研究を実践に変えただけなので、なんとかなりそうな気がしますが、
前者なら自分が受けてきた教育はいったいなんだったんだろうと思ってジレンマ中です。

TEGEさま

コメントありがとうございます.お返事が遅くなりました.古い記事だったので,どんな思いで何を書いたのかを思い出していました.

教育と研究における大学の役割について,私は明確な意見を述べられなくなりました.約1年間,教員として活動をして,自分の中で色々な迷いが生じています.教育を主とするのか,研究を主とするのかは,その大学の個性に依るところがあると思います.そのため,一概にどうとは結論付けられないと思います.

さて,大学は「研究を教育する場」なのか「研究を使って教育をする場」なのかというご質問ですが,私自身の意識はどちらもYESです.所属大学や一般的な社会における考えとは違うかもしれませんが,私の意見を述べます.
大学は最高学府として,社会に貢献する人材を育成することを担う教育機関であると思います.そのための1つの手段が研究であると思います.学問を深く突き詰めていけば,それは自ずと「研究」になるものだと思います.そのため,前者の「研究を教育する場」という質問に対し,YESと言えます.ただし,「研究を強要する」のは大学の役割ではないと思います.私の意識では学部生の卒研は,あくまで「学生生活の集大成」であると思っています.それを「研究」という枠組みに当てはめて,「研究者気分」を体験させるのが卒研だと思っています.ものすごい反論を受けそうな意見ですがw.しかしながら,TEGEさんは修士課程のようですので,研究は義務であると自覚されるべきだと思います.「研究者気分」を体験し,それを続けようと思ったからこそ,進学したのではないでしょうか?そうではない他の強い動機があるのかもしれませんが.修士課程と学士課程の大きな違いは,教育と研究の比重だと思います.
後者の「研究を使って教育をする場」についてですが,「研究を使う」という言葉の範囲をどのように捉えられているか分かりませんが,これもYESです.あらゆる学問は過去の識者による研究成果の固まりであるので,研究成果で教育をする場であると言えます.「現在の先端研究を教えることが教育か」という意味だとしてもYESです.成長を続けるためには,常に前向きに進んでいる必要があります.古き学問は基礎として重要ですが,新しい研究成果も教育に反映させなくてはなりません.それは遠かれ近かれ過去の研究成果ですから,教育に反映させ,多くの学生をそのレベルまで引き上げることで,より新しい高見に進む可能性を準備できると思います.

長文になってしまいましたが,答えになっていますでしょうか.新しいコースが開設されているのも可能性の1つであると思います.学外者の講義は学内者のそれとは異なること雰囲気があると思います.その中から少しでも何かを見つけられると,視界が開けてくるかもしれませんね.

返事が遅くなってしまいました.コメントしていただいてありがとうございます.
頂いたコメントを読んだり,自分でも色々と考えるうちに、いくらかはジレンマが解消されました.
新しいコースなので,手探りで研究・教育を行ってきたせいでもあると思うので,来年に続く後輩たちのためにも結果が残せるように、後1週間頑張ります.

プロフィール

e-m@il @ddress