J-CASTが「大学崩壊」という連載を始めたようだ.5月3日現在で,第2回まで公開されている.以降,公開される毎に追記していく予定.第11回で最終回を迎えました.
- 最高学府はバカだらけ この現実どうするのか (連載「大学崩壊」第1回/大学ジャーナリスト・石渡嶺司さんに聞く)
- 東大「一人勝ち」ますます進む 京大や早慶「何をやっとるのか」 (連載「大学崩壊」第2回/国語専門塾代表・中井浩一さんに聞く)
- 大学進学率は20%でいい 「下流大学」に税金投入価値なし (連載「大学崩壊」第3回/消費社会研究家の三浦展さんに聞く)
- 運用の基本は「安全運転」 大学は「投機」やめるべきだ (連載「大学崩壊」第4回/「早稲田のゴーン」關昭太郎さんに聞く)
- 年収100万円台も珍しくない 非常勤講師「使い捨て」の悲惨 (連載「大学崩壊」第5回/首都圏大学非常勤講師組合の松村比奈子委員長に聞く)
- 数学不要にした私立大の入試 これが日本の教育歪める最大原因 (連載「大学崩壊」第6回/週刊誌記者の千野信浩さんに聞く)
- 「楽々東大に受かる」生徒たち 海外のトップ大学目指し始める (連載「大学崩壊」第7回/ベネッセコーポレーションに聞く)
- 1億円かけてフリーター 大学院生「今の半分で十分」 (連載「大学崩壊」第8回/コンサルティング会社の橋本昌隆社長に聞く)
- 交付金年々減少 国立大はやっていけるのか (連載「大学崩壊」第9回/野村證券・片山英治さんに聞く)
- 多様な能力持った人材集める これが国公立と違う魅力 (連載「大学崩壊」第10回/立命館大学に聞く(上))
- 学生数30年で1.5倍 でも「M&A」とは違う (連載「大学崩壊」第10回/立命館大学に聞く(下))
- 始まった「大学淘汰」 聖トマス大「敗戦の弁」(連載「大学崩壊」第11回/募集停止続々)
第1回については,図書館の使い方を知らないという点や金沢工業大学の話など,同意できる点もあるけど,基本的に嫌い.この分析はある一面を切り抜いただけで,本質に迫っていない.確かに書かれていることは事実だが,その背景が述べられていないので,読者のミスリーディングを誘うと思われる.
第2回は良記事.国公立のことはよく知らないけど,おそらくそうなんだと思う.東大の一人勝ちは言わずもがなの現状になりつつある.問題なのは,東大以外の大学が東大こぼれを奪い合おうとしている点.つまり,東大から奪い取ろうとは考えていない.上を見ずに,横とか下とか見ている.それが第2回で言及されている部分だと思う.正に「何をやっとるのか」ですね.
第3回も全体的な印象としては嫌いな物言い.大学の数が多すぎるのはその通りだが,だからといって大学進学率が20%となる論理展開が理解できないし,そもそも大学の社会的役割を理解していない.インターネットを使ったオンライン化がどうのこうのと述べているが,e-learning懐疑派のオレとしては,それこそダメな学生を増長させると思う.必要なのは対面だよ.しかしながら,後半で述べられている「職業大学」構想はオレの考えに近い.大学が就職予備校と揶揄される時代において,大学の本質を維持するためのには,学問を探究する場と,社会適応を身につけ職業訓練を行う段階としての場を分けてしまってもいいと思う.「大卒じゃないと就職先が」という人は,是非とも職業大学に進んでいただいて,本来あるべき最高学府は学問の場としておけばいい.未曾有(みぞうゆ)の大不況において,卒業すれば必ず仕事にありつけるとすれば,職業大学の価値は高いんではないでしょうか.
第4回はコメントできないです.金融とか財務とか投資とか,よく分からないです.私学の場合,そういうのは理事会がやるんで・・・.って,早稲田も私学か.
第5回は非常勤講師と任期制に触れた話.大学は一体どこに向おうとしているのかを案じる内容.大学教育の充実を重点に話をする場合,非常勤講師と任期制の問題は重要な位置付けにある.一般に,大学教員の業績評価は「研究成果」で行われる.非常勤講師の場合,研究業績をあげることは困難である故に,業績評価の部分で不利を被ることは間違いない.ここで妙な例示を出してみたい.大学は教育と研究のどちらに重きを置いているだろうか.非常勤講師と研究員の数を比べれば明らかであろう.大学は教育に重きを置いているはずである.片や任期制は何のためにあるだろう.数年の間に業績評価を行い,継続を判断する.そもそも僅か数年では入学生を送り出すこともなく終わりということもある.教育という側面では本領が発揮される前に契約更新の時期を迎える.大学教員の所属大学に対する愛校心って,如何にして養われるんだろうか.
第6回は論点がよく見えない.前半のランキングとか勝ち組の話はよく分かるが,それと後半の入試で数学をやらない話の関係性がよく分からない.まず,後半の話から先に.入試で数学をやらないから,数学力がどうのこうのってのは,ちと違う.入試に課したら数学ができるのかといえば,そういうわけでもなく,大学で数学を再教育し直すのだから,高校が常識の範囲で当たり前のように数学を教えているのであれば,入試で推し量る必要はないと思う.そうなっていない状況は大学以前の問題だといえる.仮に大学入試に数学を入れたところで,それが入試として機能を果たさないことが目に見えているならば,入試で数学をやる意味は無いだろうということ.大学のランクによって色々でしょうが,そんな現状があります.次に,勝ち組の話.これはよく分かる.以下の言葉は端的に良く表していると思う.
入試の偏差値とかなり相関関係はありますが、学校の伝統、校風が確立されているところの評価が高い傾向にあります。OBを含めて、学生たちは周囲に刺激さ れていろんなことに関心を持つようになるものです。例えば慶応から400人もの公認会計士試験合格者が出るとか、東大で天下国家を真剣に語るようになると か、そういう環境に身を置いていることが、何かしら学生が向上していくきっかけになるのです。
大学は新しいカリキュラムの導入とか、新たな学部学科のコンセプトなどは懸命に宣伝しますが、それがどんな実績を挙げているのか、についてはほとんど口をつぐんでいます。
J-CASTニュース : 数学不要にした私立大の入試 これが日本の教育歪める最大原因 (連載「大学崩壊」第6回/週刊誌記者の千野信浩さんに聞く)
そのうち書くと思いますが,「愛校心」ってのはすげー重要な意味を持っていると思うのです.「学力優先.入試に落ちたら他大学院に行ってね.バイバイ」とか「任期付きだから実績溜めて他所に行ってね.バイバイ」とか「見聞を広めるために他所に行ってきなさい(暗にもう帰ってくるなと言う意味を込めて).バイバイ」とか,どうやって愛校心を育てて,大学を守っていくのでしょうか.変革だけが全てですか?改革は常に良い方向に向いていますか?現状を維持して守っていくことができないから,改革という名の下に迷走を続けるだけではないのですか?
第7回は海外大学への進学の話.自然な流れだと思う.島国日本から世界に羽ばたこうとしているのだから,応援して然りだし,止める理由は何一つ見当たらない.そもそも,日本の初等教育から高等教育まで,英語を話せるようにしましょうって言ってるわけでだから,それを実現する高速道路ともいうべきがルートHだとすれば,なんらおかしなことは見当たらない.そして,ハーバード受験熱はブログからか.ブログ否定派は現実を直視すればいいのに.ディジタルディバイドされてることに気が付けばいいのに.と閑話休題.ルートHの生徒でも,日本の大学を併願することには些かの違和感を感じる.このような志の高い生徒が日本の大学に入って,果たして満足するのだろうか?日本の大学に入学して仮面浪人をするくらいなら,UCLAとかCMUとかを併願すれば良いんじゃないだろうか.いや,それらが併願先として適切かどうかはわからないけど・・・.
終わったと思ったら,まだ続きがあった第8回.こういう人が悪者発言をして,不安を煽って,大学院進学者を減らして,学部卒就職者を増やして,学部卒就職率を低下(採用枠は増えないでしょ?)させて,「大学は社会の要求に応えていないのは明らかである」とか言い始めるんですね.わかります.本質はそんなところにはないのに,なんで気が付かない振りをするんだろう.博士云々は置いておいて,少子化で成人人口が減っているにもかかわらず,就職できない人がわんさかいるのは,なんでなんでしょうかね?
まだ続いてた.第9回は交付金が減らされている話.財政に関する話はよく分かりませんので,コメントなしで.
第10回は上下2回の大作です.立命館大学が成功しまくっている話です.大学経営の話が含まれていて,意見できるところではないですが,印象的な部分を引用してみます.
AOでは、一定層の「本当に立命館に来たい」いう人、いわば「立命館熱烈支持層」を確保したいですね。これは、我々のアイデンティティを高めることにも繋がると思います。
J-CASTニュース : 多様な能力持った人材集める これが国公立と違う魅力 (連載「大学崩壊」第10回/立命館大学に聞く(上))
AO入試がその役割を担うべきかどうかは分かりませんが,愛校心を持つ人を学内に置いておくことは肝要だと思います.大学のカラー,アイデンティティはとても重要な意味を持っていると思う.
「何人合格を出すのか」というのは、非常に悩みます。東大さんや京大さんであれば、100人合格を出せば、その大半が入学してくれるのですが、うちではそうもいかない。2割なのか15%なのか、読めないのです。特に今回は新学部で、「何人合格を出すと何人入学する」という過去のデータがなかったことも大きかったですね。ただ、担当者からすると、欠員が出ると、「立命館は新しい学部を作ったけれども、集まらなかった」ということになるので、欠員を出すことは一番避けたいと思っています。
J-CASTニュース : 学生数30年で1.5倍 でも「M&A」とは違う (連載「大学崩壊」第10回/立命館大学に聞く(下))
この問題は本当に難しいです.合格を出したら,そのうちの何割が入学するのかというのは,大変に困難な予測です.ましてやリーマンショックの影響で,国公立志望が増え,私大の入学者調整は困難を極めました.困難にしている一因としては,複雑な入試方式も関係します.しかしながら,情勢や時代の流れなどに影響されることが多く,これといった最善手はない.