思うところがあって,教育に関する話題は避けてきたわけですが,チラッと書いてみる.全て私見であり,持論です.正しいかどうかは,今後40年をかけて検証したい.そしてそれは,教育という世界において致命的だ.
工学部でよくある人事は、国や企業の研究所に勤めている35~40歳の方を大学に転職させるケースだ。成功例も多いが、失敗例も多い。このような方は大 学で博士号を取得し、ずっと研究の世界にいて、学界のことしか分かっていないことが多い。一般社会という現場を知らないことが大きなマイナスになっている 場合が目立つのだ。研究テーマの選び方を間違えたり、研究発表ですべてが終わったと考えてしまったりする。
だから、修士課程卒業で民間経験のある方を、30歳ぐらいの若い段階で大学へ転職させ、その後で、博士の学位を取らせ、次のステップに進む形の人材育成プランの方が、成功確率が高いことが多い。
縮みゆく大学経営:日経ビジネスオンライン
私には理解しがたい考え方である.大学は研究教育機関であり,研究を行う機関であると同時に,教育の最高学府でもある.しかし,ここで語られることの多くが,研究についてのみであり,教育の観点が全く抜け落ちている.大学教育というものが論じられるとき,往々にして,研究の視点か教育の視点のいずれかに偏って語られる,だからあえて,私は教育の観点から私見を述べたい.
私が学部生だったころ,私の大学はいわゆる古き良き時代の先生方が多く在籍していた.それはつまり,大学を卒業し,そのまま助手として大学に残り,そのまま博士号(もしくは修士号)を取り,助教授になり,教授になった先生方が多くいた.学舎で育てられ,愛校心を持ってその学舎を育ててきた,言わば学舎に骨を埋めた方々だ.詳しくは追々書くことになると思うので,眠いこともあり,今回は詳しく書かない.だが,その先生方の指導は本当に素晴らしかった.授業の内容が今役に立っているかと言えば,ほとんど役に立っていない.授業だって,「今日はワールドカップなので,16時で終わります」なんてまかり通っていた.でも,そこで学ばされた2つのことは今も実直に守っている.「自分の知らないことは人が見ていないところでコッソリと勉強する」と「勉強はさせられるものではなく,自らするもの」.私の大学で学んだことは,この2つだったと言っても過言ではない.
こういう教えをする本質はなんだろうか.大学の教育はなんだろうか.大学教育に求められるものが,専門性のある高度な知識だったり,研究のノウハウなのだろうか.それとも,就職予備校だろうか.もし,それらが大学教育の本質であるのならば,それはそれは専門家の優れた方々を大学教員として招聘すれば宜しいと思う.しかし,そこに愛校心はあるのだろうか.「私が困るからお前ら勉強しろ」と言えるだろうか.大学教員が学生に講義をするのは何故だろうか.何のためだろうか.
誤解を恐れずに,言葉汚く言うならば,企業人が大学教員になる時,それはビジネスライクであり,金やキャリアのためだったり,あまつさえ企業研究所のポジションを下の者に譲るためとかではないのか.もし,大学が大学院と完全連携し,大学は教育,大学院は研究と位置付けが完全に分業化された時,企業出身者は大学教員になりたいと考えるだろうか.大学院教員になりたがるのではないだろうか.
大学の役割がどうこうは別として,学生の視点で見た時,大学は何を教育すればよいのだろう.就職予備校と揶揄される昨今,大学教育における研究の意義はどれ程あるのだろうか.学生のほとんどは生涯にわたって,研究に触れることはない.研究を続けていくのはほんの一握りである.大学が力を入れるべきは,どのような学生を世に送り出すかだと思う.どんな研究をさせるかではないと思う.一般的に,そうだと認識されているとは思うけど,確認のために書いてみた.
話が蛇行し始めたので,閑話休題.大学教員に求められる能力が教育であるとするならば,民間経験は必要ないと思う.それは小中高の現状を見れば明らかである.少数の民間経験者が新しい風を吹き込む役割をすればいいと思う.そして,博士号取得が必須条件という状況も,一定の条件下で緩和されるべきだと思う.大学教員に求められる能力が研究であるとするならば,民間経験は必要かもしれない.民間経験をしていない私には判断できかねる.
初等中等教育には,民間経験者を採用する特別教員免許状制度の動きがある.また,博士号取得者を教員に採用するという動きもあった.上手くいっているらしい.企業から優れた研究者を多く採用してきた大学は,一転して教育の視点から教員採用をする時代が来るのではないだろうか.というか,期待したい.
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