領空侵犯 - プレゼンツールは要らない

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先日,講義のIT化について私見を述べたわけですが,日本経済新聞2009年6月8日の5面オピニオンに,野口悠紀雄先生のインタビューがありまして,その内容が非常に興味深かったので,今更ながらにサルベージ.

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「わざわざ資料を投影すれば,当然,聴衆の目はスクリーンにいきます.しかし私は自分を向いていてほしいわけですから,矛盾していると思いました.(中略)聴衆も画面ばかり見ていると自分で考えなくなる.以来,ツールは使わないことにしたのです」

とても素直で,分かりやすい説明です.確かに,スクリーンを見ていたら,発表者は見られないわけなので,流れるようなプレゼンは,人間が変わってしまっても置き換え可能かもしれません.

「私は講演でも講義でもテキストの資料を作り,印刷して配ってもらいます.講義では必ず黒板を使います.ツールでは表現できない話し手の思考過程が見えるからです」

これまたよく分かる説明.講義でプレゼンツールを利用する場合,学生の質問に対応できない.例えば学生から「その式の導出過程がわからない」と質問されたとしても,その導出過程を説明したスライドを準備していない限り,ツール内で完結することはない.スライド内で思考過程を示すことはできる.アニメーションを用いることでそれは可能になるが,黒板とプレゼンツールの大きな違いは,その思考速度が表現できるか否かだと思う.プレゼンツールの場合,準備されているものをポチポチと進めていくだけなので,思考が流れるように展開されるが,実際はそうではないだろう.黒板を用いる場合,色々な思考の流れを説明できる.なんといっても,すぐに情報を加えることができる点は,プレゼンツールとは大きく違う.プレゼンツールの場合,ポインタで指さすだけで,スライドに情報が増えるわけではない.もちろん,そのための機能は準備されているが,誰が使っているだろうか?使いこなしている人を見たことがない.それが,黒板なら簡単です.

「大事なのは本人の話であり,それを補足する手段として使いこなすべきです」

「重要なことは自分が何を伝えたいのか,それにはどう伝えたらいいのか自分の頭で考えることでしょう」

講義でのプレゼンテーションは,正にこの通りだと思う.オレはそんなに器用じゃないので,講義にパワポを使うのは辞めました.手書き最強だと思ってます.黒板ではなく,白板なのが惜しいですが.

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